幻影のバラード
クローバー
いつか見たあの子供に
名前を付けることはできない
記録に残せない会話を何度もして
僕はあの子を責めたりもした
正しいことを言う事が正しい
そう責められて
実際は責めてなどいなかったのだが
そうは言ってもしょうがないじゃないか、と
彼はもともと臆病だったから
臆病なのにいつも正しくあろうとしたし
また正しかったから
少しずつ声を失くしていった
掃除は少しずつ進み
汚れは少しずつ薄くなっていく
僕が軽くなっていく
それもすべて間違っているんだよ
と、君は言わなかった
挨拶は大事さ
と、僕は最後に言いたかったけれど
それは声にならない
脚をもらっても
誰にも会いに行きたくないと泣く人魚姫
ヘリウムをお腹いっぱいに吸い込んで
飛行船は浮き上がる
その高いところから変な声を恥ずかしがって
太陽の友達は
赤く染まる
英語で話をしようか
不自由な中で掬い取れるのは
必要なもの、を、ストレートで
お客さん大丈夫ですか
わかったよ
たましいを割るよ
そんなに飲めないから
届けられた白詰め草の冠
あの子の頭の大きさで
そうか、そうだよな、と声が出て
そんな挨拶しかできなくなってしまったのか、と
やっぱり君は正しいのだな、が
混ざり合って暗く空を覆っていった。