老いた私を食材に選んだあなたへ
イナエ

生の私を丸飲みにしてはいけません
春の潮の中でふやけて
米酢の中で骨も軟化し
渦巻く流れに皮膚もすり減って
卵のように丸く滑らかになっていても
どこかに人を呪う棘を隠しているのです
胃に刺さった棘はあなたを腐蝕し
やがて私に侵されてしまいます

脳漿は柔らかい慈味なところだけを
気をつけて取りだして食しましょう
国や会社に飼育されて
艱難に絶えた復讐や怒りが
胆石のように凝り固まって
あなたの歯を砕くかもしれませんから

心臓にはホークを突き刺さないで
破れないように灰汁抜きしてから
丸飲みにしてください
愛に包まれているその中は
シロップのような甘味に似ていても
人生の悔恨が硝酸に解けて
詰まっているかもしれませんから

干物になった私であったら安全です
年経て妥協を失った筋肉が
野生化し 硬直して居ても
過去の苦みは陽に当たって甘みに代わり
滋養が凝縮されていることでしょう
骨は脆くなって
歯ごたえすらないかもしれませんが
人生の機微が絡みついているでしょう
よく咬んで ほぐして食してください
きっと地味な美味が口中に広がるでしょう

グルメの条件2


自由詩 老いた私を食材に選んだあなたへ Copyright イナエ 2014-06-22 13:24:56
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