巴里
藤原絵理子


街灯は 歌いもせずに
夜のムフタール通りへ
きみは行くべきじゃない
と 投げ捨てるように言う

ホテルの玄関で
前脚にギプスをした猫が
にやっ,と笑った気がした
ちょっと不敵な眼

ヴェルレーヌの死んだ家は
洒落たレストランになって
口紅の色とサッカーと株の話しかしない
間抜けなパリジャンに占領されていた

冷たいよね 雨が
愛って やわらかいのかな?
高慢な石畳が
ネオンを反射して光った

サンエチエンヌ教会の前で
あたしはマロニエの実を拾う
ぼろ雑巾のような子猫を拾う
ヴェルレーヌの幻影を見る

巴里の乾いた雨は
冷たさだけが肌に残る
ショーウィンドウのマカロンが
へへっ,と笑う


自由詩 巴里 Copyright 藤原絵理子 2014-06-20 22:57:50
notebook Home 戻る