灼熱の化石には肉体の名残は無い
ホロウ・シカエルボク












時は捲れて机の上

日に焼けて、みすぼらしくて

風が吹くと啜り泣く

紐の解けるような音で



雨に濡れそぼつ街が、ほんの少し

友達のように思えたのは

そんな風に立ち尽くした夜が、自分にもあったこと

そんなことを

思い出したせいだろう



梅雨の晴れ間は

不思議なくらい静かだね

耳を片方

持っていかれたのかと思うくらい

時々

冥界なんじゃないかって、そう…


ぶるっと震える


甘い香りみたいな神様が

そんな夜の中には居て

ジョンレノンの歌みたいに

本気の偽善で話しかける

時々は信じてみるのもいいんじゃないか、なんて

そんな風に思えるのがキリストとジョンレノンだ



ジョーストラマーの歌声が二周半した

日付変更線はもうすぐだ

誰がどんなものを乗り越えて明日が来るのか

そんなこと誰にも判らないのに

夜は眠るためのものだ、そうだよ、だから

そんなことは

おざなりにされるのだ



太陽の下になんて、そんなに行きたいわけじゃない

迂闊な日焼けで身体中ムラになるし

目の玉は渇いて上手く開けてられなくなるしね

だけど

部屋の中に閉じこもってじっとしていると

夏の中に溶けていきそうで

夏の中に溶けて

始めからなかったものみたいになってしまいそうで、だから

炎天下!

僕たちは外へ飛び出すのだ

ここに居たって、ここに居たって

足跡を確かに残すために



新しい仕事はまだ全部覚えていなくて

この時間になるとまぶたがつぶれそうだ、だけど

だからこんなものを書き始めてしまうんだろうな

いつでもなんでもかんでもだらだらと

書き殴ってるばかりじゃないんだぜ、そう、確かに

そういうスタイルが一番しっくりくるんだけどさ



ロンドンコーリングって、あれだよ

リバーに似てるんじゃないかな、スプリングスティーンの

汗と油と

埃っぽい風の匂いがしてるんだよな

でも、だけど

そんなことよりも

チクショーッて気持が一緒なのかもしれないよな

そうさ、ひとりぼっちで雨に濡れながら

霞んだ街灯を見上げてチクショーッって呟くような感じのやつさ

それはきっと

アラクヴァグラミアンに幾晩も幾晩も

休むことなくアクセルを踏ませ続けたやつなんだ



フリーウェイなんかなくても

明日無き暴走はあるのさ

シチュエーションじゃなくてニュアンスなんだ

ぶっ飛ばしたことすらなくたっていい

そういう衝動を覚えたことがあればそれでいいのさ



あー、類稀なる静寂が深くなっていく

こんな夜に独り言を落としていく

子供の絵合わせゲームみたいに床に散らばっていくそれは

いつか整頓してくれる誰かを待っているみたいに見える

ごめんな、と僕は詫びる

それをしてあげられるのは僕じゃない

言葉を片づけたりするのは好きじゃない、言葉を整頓したりするのは

言葉に意味を持たせたがっている頭でっかちのすることさ

たったひとりで床に落とす

言葉のほうが確かなものに思えるんだ

女優のメイクはばっちりと決まっていてほしいけど

そこらへんの女はささやかに済ませてほしいっていうようなものって言えば判るかな

とにかく僕は詫びた

こぼれおちた言葉には名前を付けないんだ

乱雑な感情のままを映してくれなくちゃ



音楽が終わったら

誰のために語るの

静寂に塗りつぶされたら

どんなものが生まれるの

昏睡の中で見る夢のような

どんなふうにすればそれは語ることが出来るの

やがて僕の言葉は誰にも通じなくなる

頭の中で渦を巻いて

どこからも出てこなくなるだろう

もしかしたら

その時にはもう言えないだろうさよならを言うために

僕はこれを続けるのか

僕はこれを

ささやかなテーブルに残すのだろうか



静寂の中に

潜り込んで行け

傍観者なんかになってはならない














自由詩 灼熱の化石には肉体の名残は無い Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-06-19 00:10:42
notebook Home 戻る