透ける 風嘯 (すけるとん ほいっする) 
るるりら

慈愛の糸でできた繭のような部屋は、安心だ。
管制塔のように 耳の中の音を分析する。


母の補聴器の購入のために 街にでた
街は祭り日。
耳の不自由な母と 私の世界は どれだけちがうのか
目の不自由な母と 私の世界は どれだけちがうのか
同じ場所にいても、同じように祭を共有しているとは思えない。
けれど、到着した補聴器の売り場は、静かで 繭の中のよう

母の耳は そうとう悪いらしい
鼓膜は、無い。鼓膜すらないと、人の耳は聞こえるものなのか。
たまに 会話が成立する アレは、なんなのか。
店の人が云うには、どうやら 母は
語音分別機能だけは、優れているらしい。

聞こえ難い耳が、
人の言葉だけは聞こえるのが うちの母。それって‥‥‥
母は詩人で
わたしは
普通の人だ

背後のスピーカーから、雑踏の音を流して、自然の環境をバーチャルに再現すると
ここは、まるでフェルトでできた車のよう。白い部屋にいながら ゆっくりと往来を進む。
機械が 雑踏の音と会話とを聞き分け、会話だけを拡張し 耳にとどけるらしい。
耳と補聴器の接触が悪いと ホイッスルが鳴る P---
「ハウリングですね。」スピーカーと集音の距離は 耳の穴より小さい
鼓膜のない洞窟に響く 空想世界の音音音

音が可視化され デジタルな色彩が表示されていて画面の中で上下して揺れている
なるほど それが母の音なのか


店を出ると、
分析されて ちりぢりになった音たちが、私たちの耳に遡上してきた
音は、みんな笑いながら わたしたちと いっしょに祭囃子の道を歩く
仲の悪い親子が 顔を近づけても ハウリングしない幻のような祭の日


自由詩 透ける 風嘯 (すけるとん ほいっする)  Copyright るるりら 2014-06-18 10:02:21
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