五感に、刻みこんで
茜井ことは

何も失うことなく
すべてを放棄するには
消えるだけでいい
だけど、すべてをこの胸に
留めおくことは
どうしてだか、こんなにも難しい

過ぎ去っていくこの春を
刻みこむようにイメージする
脳へ必死に書き連ねる今は
振り返っても
陽光のやわらかさを
つつじの花の香りを
存在しないかのようにぬるい空気を
再現してくれない

記憶
わたしが繰り返し没入するそれは
いつも何かが足りなくて
生々しさを奪われてしまう

あなたの手のひらを
くちびるを
わたしは確かめるように身体をなぞる
だけどそこには、真実がなく
そうしていつも
記憶は肌を失う




自由詩 五感に、刻みこんで Copyright 茜井ことは 2014-06-13 10:54:46
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