イノシシ
イナエ

初秋の晴れた朝
人間の作った柵を乗り越え
甘藷の群生する土地に入って
甘味な芋を掘り出し 食っていた

と…
大きな人間が木の杖を構えて
殴りかかってくる
逃げる間などありはしない

 朝飯の最中に襲われて
 黙って引き下がる獣はいない
 人に飼われた犬ですら
 飯の最中に皿を引かれたら
 引いたやつの手に噛みつくではないか
 猫ですら捕ったネズミを奪われそうになれば
 歯を食いしばり怒りの唸りを上げて爪を立てる 
 ではないか
 
 ましてや野生に生きる猪
 此処がニンゲンエリアの裏庭だとしても
 この機会を逃しては
 次に餌にありつけるのは何時か
 喰うことは生きることだ
 子孫繁栄の根源だ
 それを妨げられては…
 
遠い昔 
近くの山で起きたヤマトタケルの事件以来
人間と交わされた暗黙の条約があったとしても
仕掛けられた攻撃を防御するのは
戦争放棄の憲法といえども許されてこと

降りかかる火の粉に焼かれては
白猪の子孫の誇りが廃れる
打ち下ろされた杖をくぐり抜け
牙で人間をはね飛ばし
一目散に山へ帰ったが

人間は死んだと風が教えてくれた
指名手配をされたとも教えてくれた
鉄砲持った人間が山をうろついている
とも

自首する気など毛頭ないが
 正当防衛権は猪にはないのかい


自由詩 イノシシ Copyright イナエ 2014-06-08 22:34:50
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