うつろい
草野春心



  桜の葉を胸に抱いて
  墨色の風は流れていく
  女に似た雨の匂いが 岩間にひそむ苔を洗う
  うつむくひとの唇から 知らぬ間にすべり落ちた
  わたしの名をだれが忘れずにいられるだろう
  浅すぎる初夏の川に佇む しずかな鯉
  あなたの躯の奥で 灯されつつある幾つもの閃き
  けれどもだれが いつまでも忘れずにいられるだろう
  わたしはわたしの哀しみさえも
  それと指差すことができないのに




自由詩 うつろい Copyright 草野春心 2014-06-01 18:13:24
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