ウイルス効果
ただのみきや
仕上がった作品を手にとり
出来栄えを確認する
(……駄作だ)
地面に叩きつける
が 割れない
金槌で叩いてみる
が やはり割れない
もしやと思い豆腐の角にぶつけてみる
が そういう問題ではないらしい
陶器は割れるが
詩は割れない
わたしは陶芸家ではない
これは詩なのだ
ためしに壁にぶつけてみる
が はね返って痛い思いをする
それで使用してみることにした
「現代詩手術1月号」の付録
『言葉を破綻させるウイルス&注射器セット』
詩を椅子に座らせ腕の行を捲らせる
だが注射器を見た途端に詩は怯えて逃げ出した
すかさず後ろから飛びかかり
お尻の行にブスリ
詩は号泣し幾つものオノマトペがこぼれ落ちた
座薬を嫌がって泣いていた息子もすっかり大きくなり
今ではわたしの頭頂部を見おろして鼻で笑う
そのうちこっちが座薬を挿入される立場になるのか
遺憾! 絶対に拒否してやる
そんな感慨に耽っていると
詩の様子が変わり始めた
ぐったりしていたかと思えば 急に
副詞の目つきがおかしくなり
助詞は迷子のようにきょろきょろ
名詞と形容詞と動詞は三角関係のタンゴ
紅く絞められては蒼く愛し震え
造語に煽られた熟語たちの蛮行は
インテリ気取りでインモラルなデモを扇動する
何かをモノ凄く伝えていながら
何一つ意実を結ばない
昼に食堂のテレビで
自分の夢のドキュメンタリー映画を見ているような
そんな姿に変わっていった
(やっぱりこういうのが ……っぽいよなぁ )
ありふれていて面白みがない
そう言われたことがある
否定はしない
(これからこの注射を使ってみたら…… )
考えずにはいられなかった
考えて考えて考えた末に
わたしは注射を打った
わたしの詩に
ではなく 自分のアタマに
わたしの詩は相変わらず
家で茹でて喰うもりそばだった
だがウイルスは言語中枢には効いたようで
わたしの日常会話が現代詩的なものとなり
隣人とのコミュニケーションを破壊していった
おかげで一人の時間が増えて
ますます書くことに没頭してしまう
この一連の出来事を文章にして
ホラー専門誌「死と死相」の読者体験談に送ってみたが
結局載せてもらえはしなかった
――もう少し
アルデンテ気味でタバスコを効かせてみようかしら
《ウイルス効果:2014年2月2日》