塔の寓話
……とある蛙

塔を建てようというのが誰の発案であるのか不明である。
しかし、建設が始まると人々は、何の疑念もなく塔の建設に熱中した。
全ては塔の建設のため。そこには身分も貧富の差もなかった。
 はじめに塔を建てる候補地が決まった。もちろん首都バビロンの近郊である。そこにまず塔の基礎を作るための集団の町ができあがった。町には居住区だけではなく、商業地域も娯楽施設も、なんと売春街すらも作られたのだ。
 次に塔自体を積み上げるための集団が現れた。その集団は皮膚の色も背丈も言葉もバラバラな、もちろん宗教もバラバラな雑多な集団だった。

 宗教は別々でも、天まで達する塔の建設は、行為それ自体が偉大な思想となっていた。
 王の言葉で動いた者たちではない。塔の持つ意味は宗教的な成功者であるか、あるいは政治的成功者であるかなど、およそ世俗の立場に関係なく、誰でも塔に登りさえすれば天に至ることが可能だという一点にある。つまり宗教的エリート、権力者一切無関係に、塔に昇りさえすれば昇天できるという思想が建設者たちを熱中させたのである。

 しかし、この塔は建設途中で崩壊した。その址は気の遠くなるような時間と共に砂漠の砂となった。崩壊した理由は簡単だ。塔が形をなしてきた段階で建設従事者の一部の集団が独占しようと外の集団を配下に入れようとし始めたからだ。その結果全ての集団がバラバラに塔の利益を享受しようと闘争し始めた。
 その結果、また、雑多な思想が生まれ、塔を壊しながら闘争しはじめた。そのうち塔を一挙に崩壊させる技術を考える集団が現れた。その結果、塔は一挙に崩壊した。その時点では、闘争の目的はすでに失われ、自分の属する集団の権威の維持及び人的支配の拡大のみが闘争の目的になっていった。

 それから数千年、集団同士の闘争に生き抜けない放浪の貧しい集団は、その記憶を神話にとどめた。そして、自分の権威付けにその記憶を利用するのだった。


散文(批評随筆小説等) 塔の寓話 Copyright ……とある蛙 2014-05-26 12:24:43
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