静かの海
砦希
今日の渋谷はいつも以上に渋谷的
スクランブル交差点は青とともに人の海となり
すすみたい方角にすすめない
いつだれに刺されてもおかしくない
ひととひととの距離
まるで心を許しあった恋人のような距離
を、上手に保ち
足を踏まれないように
すこしビクつきながら
歩くのです
お前はよそ者なんだと
言われているような気もする
どこにいても消えないこの疎外感と
そろそろ上手に付き合っています
静かな声で
お気に入りの歌を口ずさんだけれど
誰の耳にも入ることはない
地下鉄のホームの
電車が入ってくる瞬間と
おんなじ
風がないだけ
この喧騒こそが
最高の静寂だということ
静かの海に
身を投げた人々と
静寂のなか
今も息をしている