もうひとつの日傘のチェリー
竜野欠伸

晴れわたった休日の朝に
僕にとっては
世界で一番優しいのは
君だけだよと
伝えたのだけれど
宇宙で一番優しいはずだと
言ってくれた年上の彼女に
僕がもし火星人と
浮気をしたらどうする?
と冗談で聞いてみると
許さないと
きちんと答えてくれた

街のデパートで
もうひとつ日傘を
探してみたいからと云って
一緒に出かける
往路の電車の中で
ふと気づく

彼女は
薄紅色のキーケースが
どこにあるのか
わからなくなって
一度探しに家に戻って帰る
僕のキーホルダーを借りて
次の駅で電車を降りていく

そう云えば
ある秋のまだ付き合い
始めたばかりの雨の日
彼女の住む旧い
アパートへと送るために
ひとつ傘の下
ふたりで歩いていた
雨水を弾く日傘は
とても小さくて
ふたりは降りしきる雨に
びっしょり
濡れながら
帰って行った
ストライプの模様の傘には
紅いチェリーの絵柄が
描かれていたことを
想い出す

やっとのことで
僕は外来で
診察を終えると
待ち合わせ駅へ
復路を電車で向う
休日の昼下がりに
高層ビルが立ち上る
まるで透き通る
鍵穴のような
青空からは
もう初夏の陽射しが
嬉しそうに
そっと零れている


自由詩 もうひとつの日傘のチェリー Copyright 竜野欠伸 2014-05-18 00:08:54
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彼女に捧げる愛と感謝の詩集