一人の帰り道
クナリ
決まった道を 決まったように帰る
いなくてもいい自分
ならば 通らなくてもいい道
同じドアを今日も開ける
帰らなくてもいい家
ならば 置き去りの孤独
明日は何かいいことがあると
言い聞かせて眠っていた頃もある
今日の続きが明日なのだと
昨日から続く今日なのだと
誕生から続く鎖が
無くなる明日など無いのだと
見ない振りをしていた頃
それが正しかったと気付いた昨日
太陽の色を 覚えていない
月の明かりは 初めから色が無い
星はどれも 同じ光
水銀灯の色が違って見えるのは
まるで自分のようだから
誰か
誰か
誰か
誰でもいい
そんなはずはない
理想的な誰か
偶像的な誰か
いるはずがない
足はどこだ
手のひらは 何をつかんだ
自分を隠してくれるからという理由で
好ましくもないのに体を溶け込ませている闇
その中に入れば
影になれると思っていた
誰にも見つからない夜があると思っていた
けれど本当は
誰もの目に触れて
誰もが通り過ぎていく
足はどこだ
手のひらは 何をつかんだ
どこまで降りていけばいい
ここで求められなくなったら
あとどれだけ降りていけばいい
どこまで降りられる
降るためだけのこの階段はどこまで続いてくれている
もう膝まで
水に漬かっているじゃあないか
どこまで降りていけばいい
息を止め
水にもぐり
その水底の先の先
誰がいる
何が光っている
あれは
近づいてくるのか
触れてしまっても
再び岸に上がることはできるのか
誰も見ていなければ
触れてもいい類のものなのか
この目は見ているのに
誰にも気付かれずに
誰にでも見つかるのに
足はどこだ
手のひらは何をつかんだ
何がいる
そこに何がいる
この目は見ている
起こったことを覚えている
いっそ盲いてくれないか
この一人の帰り道
ドアを開ける
その時までは
その時までは。