ばあちゃんの野菜
小原あき
ばあちゃんの野菜は
やわらかく
大根は一時間も煮れば
中まで味が染み込む
ジャガイモは
カレーに向かないくらい
すぐ溶ける
竹の子も灰汁がすぐに抜ける
とっても素直な野菜たち
二時間かけて
ばあちゃんちに行く
山とトンネルしかない
でも飽きない
山はぽこぽこしてるし
トンネルはキラキラしてる
車のナビが
「フクシマケンニハイリマシタ」
っていうと
わたしの中で歓声が上がる
ばあちゃん
遠いところから来るわたしたちに
お土産を沢山
沢山くれようとする
三人家族では
処理しきれないくらいの野菜たち
洗われた茄子は
太陽の下でぴかぴかしてた
もうすぐ米寿のばあちゃんの
膝の軟骨はほとんどないのに
少しでも畑を耕そうとする
ぜんまいを揉むばあちゃんの
膝はぴんと伸びていた
笹舟は作れなかったけど
十しか違わない叔母さんと
ひとつ上の姉と
湧き水が
さらさら流れる側溝に
草をちぎって
何度も流した
小さな足で
追いかけて追いかけて
その草は
どこまでも流れていきそうだった
この地でできた野菜たちは
みんな素直
それをためらったことがある
わたしだって
二歳の子を持つ母親だ
でも
ばあちゃんの顔を見たら
それが正しいのかわからなくなった
一人暮らしのばあちゃん
こっちに来いと
とうさんは言うけど
薄くうなづくばあちゃんは
黙って畑を耕す
何が正しいのかなんて
わからない
ばあちゃんが
あの山を好きなのかも
わからない
でもばあちゃんは
大金積まれたって
そこを動かないような
そんな気がする
いや
動けない
そんな気がする