列車の音
山部 佳

「ととん、ととん」
曇った夜空から
列車の走る音が聞こえる
大気の具合でこんな日がある

目の前に来た列車に
いい加減に乗り
いい加減に乗り継いで
私の旅は現在にある

飛び乗った列車が特急で
別料金を取られたこともある
たまたま魚の行商列車で
干物をもらったこともある

都会の近郊では
それなりに身を飾り
田園風景の中では
ほっと、ため息をついた

私の体からは
右手の小指1本と
左の肺が半分、失われた
心は、収縮した

「そろそろ帰って来い」
とうに消えてしまった
懐かしい故郷から
懐かしい人々が呼ぶ

「ととん、ととん…」
遠くを走る列車の音は
「縮んだ心を、少し膨らませて
あとちょっと走れ」
と、私に言う



自由詩 列車の音 Copyright 山部 佳 2014-05-06 18:54:34
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