202号室の男
六九郎
世界が寝静まった夜の部屋に一人
特にすることもなく読むべき本もない夜
窓から流れ込んだ湿った空気が部屋の底に貯まっていく
昨日でもなくまだ明日でもない今
寝てもいないが起きてもいない頭を垂れて
机の前でじっとしている
机の上の白いノート
俺はまだ何も知らないのかも知れない
しゅぽんッ、、、
いつものさびた栓抜きが伸びてきて頭の栓を抜かれると
しゅわしゅわと身体の中に湧いた細かな泡が
足先から俺の皮膚の下を這い上がり
頭から溢れたぬるい泡が俺の顔を濡らしていく
指先を伝った泡がノートに染みを拡げていく
うす暗い部屋の中で
デスクランプの周りをさっきから一匹の羽虫が飛び回っている
誰も知らない夜の底で
俺はまだ誰も知らないのかも知れない
朝の光の中でノートに残った茶色の染み
染みが作った奇妙な模様