「群青」課題詩 「嵐に浚われた男」
木原東子
Kとのみ名乗るおとこがいた
足の下の、10インチ四方のみ
そこにKは立っている
立ったまま眠り
一本のペン
一枚の紙切れ
夢を綴った
そこにのみ意味があるかのように
不本意にもKは結核で死んだ
汚濁まみれだ
K2もいる
ピンクのスリッパを履いている
スリッパの動く地域を自由に動く
清潔な2本の手は
可能な限り世界に触れない
偶然に触れなば
清潔化する
美しく
病原菌に毒されていない
それのみが生存を許される
必要最小限に生き
それ以上のものには縁がない
一日生きるたびに
世界は縮み
次のステップを踏み出せず
空気からも逃げたかった
一日生きるごとに
小さく縮んだ
ある日春の嵐が
窓の隙間から吹き込んだ
K2はもう見えない程だ
薄っぺらな1インチの紙切れ
心の中は空っぽ
気配だけが嵐に運ばれた
純白の魂として
汚れなき概念として
彼の夢の中で