泣いた赤鬼
山部 佳

コーヒー豆を煎っている
剥けてくる薄い皮を丁寧に
吹き飛ばしながら煎っている

誰かのためでもなく、自分のためでもない
ただ美味いコーヒーになるように
細心の注意を払っている

窓から外に出た香りは
誰かが訪れてくれるのではと、かすかな
胸のどこかの期待と混ざっている

もう誰もいないのだから
誰かが来るはずがない

私の中の隣人たちは
とうに姿を消してしまった
見知らぬ老人が子供をあやしている

じゃらじゃらと、焦がし過ぎぬよう
ひっきりなしに右手を動かす
疲れたら左手に持ち替えて

家中に喫茶店のような香りが
溢れて漂って、静寂が耐え切れぬほどに
沈黙したカーテンを風が揺らす

心の中に看板を掲げる
「どなたでもお気軽に!
おいしいコーヒー、淹れてます」
独りになった私は、途方に暮れている


自由詩 泣いた赤鬼 Copyright 山部 佳 2014-04-24 22:33:11
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