手向け 最愛を受けた者より
黒ヱ
流れてく 菜を冷やした小川の 見えなき終
そんな事を思い出していた この遠い地で
弔いの灯は風に泳ぎ 灰は風に舞う
皆を覆い隠して 空へ
消えた
貴方がくれた 幾千のもの
わたしのために してくれた幾億のこと
そして それらに付随された愛
愛
わたしが最愛だった
貴方が千切落ちたあの日に
喜ぶから 闇雲に集めた甲虫の犇めきを
共に群がる もう戻らない貴方へ
群雨は降る わたしに そして貴方に
貴方は見るのだろう 多岐亡羊を
貴方
「絶景だ」
人として ありたくて
消して届きはしない文を残す
後悔の念 増すばかりで
笑い方も忘れた
「さよなら」
二度とは会えぬと 語りかけてきた狐の
後ろで 温もりなく手を振る 貴方によく似た人
「ねぇ おじいちゃん」
わたしは こんなに大きくなったよ
いろんなことを 出来るようになったよ
今やっと 全部に気づいて 叫んでいるよ
会いたいんだよ どこにいるの
こんな遠いところで 叫んでいる
撫でられることのない 迷い子は
あの日の貴方に会いたがってる
貴方は知る由もないのでしょう
そう それでも
最愛の果て 気付けたわたしは会いに行くのに
貴方がいないとしても
思い出の園に とても好きな小さな香りがある
わたしに向かって 大きな手を広げて