血管少女
るるりら

絵の具の声が
はじめて油絵具を手にした少女には 聞こえた。
「恥じるな ためらうな チューブから色を ひねりだせ」
開封し、すこしだけ色を出してはみるけれど、ぬっちょりとした色があるだけの
それはまるで スライムのよう
人工ゴム粘液と違うのは、 みるみる乾くものだから、おもうままに描けない。
苛立ちのせいで 赤い絵の具を たいして使いもせずケースに収めた。

少女の特技は おもいのままの夢をみることができること
布団に入ると
あかいあかい動脈の血を 心に描きながら瞼を閉じた。
赤い世界が 眼前に広がる
少女は心臓に行ってみた。
無垢に鼓動し 身体のすみずみを 突き進む
ときには丸くなり ときには やわらかいカラービーンズのように 
くぼんだりもしながら
血管の中を 流れてゆく
どどど ど
どどど ど
ながれながれて細部までめぐり やがて
青白く細らむそのさきで蒸散し 身体の外に出た。
そして少女は、元いた場所を かえり観た。

人間のような女が横たわり 静かに寝息を立てている
人間と違うのは 身体の胸のあたりから、 ふとい幹が のびており
腕も足も地に向かって伸び
胸のあたりから延びた幹の先からは
それはそれはゆたかな枝葉が 上へ上へと伸びている
身体中に
あかいあかるい エネルギーの一粒一粒たちが すみずみで脈打っている
どどど ど
どどど ど
子葉は四方八方にのび 光を受けて絶えず延び
より先端に実をつける はれやかに赤く透明な よりスグリ


あれは夢だったのか/わたしは 何者なのか/
布団から飛び起きて
夢の中でみた自分の姿を ノートに急いで描いた。
緑と紫にキャンパスは彩る。いよいよ先端の実を描こうとしたが
チューブの先が 硬化して 色が出なかった。
   がっつりと大地つかんでいた私の身体の色が出せない
やがて、静脈のように毒々しい色の絵が できあがり、
教室の片隅に飾られた。


絵が
夜な夜な赤い実を増やしているとは、
まだ だれも きがついていない。


自由詩 血管少女 Copyright るるりら 2014-04-23 15:40:29
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