アグネシュカ 夜明けの森
石瀬琳々
夜明けの森を夢見た わたしの閉じたまぶたは
光によってひらかれる あなたの白い
春のような指さきで
わたしのためにあなたは生きていた
わたしが悲しいときははらはらと涙を流した
嬉しいときはあなたは花のように微笑んで
黄昏がさびしいと
水のきらめきが美しいとこころを痛める
光と影のようにいつも隣り合って過ごした
もうひとりのわたし
手をのばせば今すぐあなたに触れるだろう
すみれの花を抱えて途方にくれないように
花の匂いにむせてあなたを見失わないように
一心に森を駆け抜けた 生まれたばかりの足で
(どこかで鐘が鳴り響く 耳の奥で
いいえどこか遠い湖の底で )
橋を渡るとあなたが待っている
アグネシュカ 青い瞳にわたしの湖が映る
揺れる長い髪にくちびるを寄せて
わたしはもうひとりのわたしを抱きしめる
あなたをずっと夢見ていた
アグネシュカ 夜明けがもうすぐやってくる
あなたとわたしがひとつになるように
どうか白い指をからめて
あなたに導かれて 夜明けの森を夢見た
森は眼前にひらかれる 翼をひろげた鳥として
ふいに飛び立つ空はすみれいろ
(どこかで鐘が鳴り響く 耳の奥で
いいえどこか遠い湖の底で)
あなたのためにわたしを生きている