ひとつ 冬辺
木立 悟





舟から生える樹
川岸の影
海を描く霧
器の水に
沈む糸くず


雪が雪を追い抜いて
土や花を振り返る
土にも花にも
雪は見えない


酒に勝つ甘味が見つからず
草のはざまをさまよう舌
指 腕 頬 耳
塩からいばかりで


夜の蜜の行方
三枚めの羽が
四枚めになり
他を透り
またたく


何もない場所を歩いて
花だけがついてくる
そのずっとうしろに
小さな手がある


羽が五枚に
六枚になり
もう光とは呼べないくらい弱い光を
見つめ返す


水底の
途切れ途切れのうた
痺れを満たす茶
酒の紙魚
つもる音 つもる音


遠く うしろで
羽のあつまりが
かちかち かちかち鳴っている
小さな手は皆
名前のない花を持ち
遠く遠く 遠去かる


折りたたまれたものを戻し
戻らぬものを街に遺棄した
うたはまだつづいている
水紋をなぞり
響きつづける


























自由詩 ひとつ 冬辺 Copyright 木立 悟 2014-04-23 09:20:37
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