ケチャマン
末下りょう
中国人かブラジル人ばかりの街でプッシャーをしていた近ちゃんが死んだ
パニック障害の薬を齧りながら
大麻、クラック、LSDを顧客中心にさばいていた
高校球児だった近ちゃんは学園一足が速く、あの夏、甲子園のダイヤモンドを丸刈りで誰よりも速く駆け抜けた地元のヒーローだった。翌年の冬、近ちゃんはパクった原付きで事故り右脚の大腿骨を粉砕した。手術と長期入院をきっかけにメタボになりその体重が更に脚を圧迫して偏頭痛持ちになった。
糖尿だった近ちゃんは生理の女とヤルのが好きだった。部屋のシーツを血まみれにしてチンポを赤く染めてスペルマを女の顔にかけて果てる。女の血の匂いがたちこめる部屋のベッドに寝そべりハッパを吸い込むと俺って全体だぜって思ったらしい。女はいつも相場の3倍の金を受け取りまたよろしくねとつくり笑いを浮かべた。チンポにへばりついた血が乾きカピカピになると女の血のなかで全体がみるみる萎んでいくのを近ちゃんは感じていた。
俺が死んだら内臓、骨髄、目玉、使えるものは全部ヤミでさばいてくれと言っていた。チンポが欲しい女がいたら俺のを付けてやってくれと言っていた。
火葬場にブラジル人の女がふと現れた
女は勝手に棺にロウソクを1本突っ立てて
小瓶に入った水をかけて帰っていった
赤いドレスを着ていた
できればケチャップでもあればなと思った
近ちゃんはよく後ろにトビタイと言っていた
ハッパでもドラッグでもセックスでもただ後ろにトビタイと
近ちゃんを焼き終わると脚に埋まっていた金属の棒がゴロンと残った
金属バットかよってストリーキングのツレが呟いた
糖分が不足した表情をしてきみに仕返しするために
ぼくは少し黙らなきゃなと思った
つくり笑いを浮かべた女のケチャマンは乾いて剥がれ、痒く、粉をふき
ケチャップをあの街にぶっかけて赤くなる全体