人魚の溶液
比良末潮里
人魚姫は泡なのです
哀しみの泡なのです
追いかければ
追いかけるほど
溶けてしまう
運命はスノーボールの中みたい
たくさんの手
たくさんの瞳たちが
彼女の
沈んで溶けていくのを
「キレイ…」
とつぶやく
王子様
私は
拾った子猫じゃないの…
口付けて
この胸潰れるほど
抱いてくれたなら
この哀しみが
身体を溶かすこと…
白い泡が上方へ浮遊して
身体は沈んでゆく
愛おしくも
哀しい
美しきものがたりを
遺伝子の螺旋
白濁して溶けてゆく
渦になって沈んでく
哀しみの
届かぬ海の上
下弦の月
波が揺れて崩れてく
魔女たちが
嗤う
虚構を肴に
愚かな姫の恋の悲痛に