Ninja
一 二

社会人になり
デスクワークの仕事で
尚且つ週休二日であり
学生の時より暇になったので
念願の大型自動二輪の教習に通いだした

教官に免許を取ったら何に乗るのか?
と尋ねられ俺は迷わず
「ZXー12R」と応えた

教官は哀しいような空しいような呆れたような
何とも言えんような顔をしながら語りだした

俺たちの親父の世代がマッハやZ1に取り憑かれたように
俺たちの世代がGPzやZZRに取り憑かれたように
そしてあんた等、若い世代がZXに取り憑かれているように
「世界最速」の看板を背負って
常にマシンの性能を誇示しなければならないという
強迫観念に突き動かされ股がらされる
カワサキのフラグシップ
本来なら回さなくても車より速いエンジンを
回して走る高回転型にしてんだ
あんなのに股がって
安全運転をするなんて無理難題だ
世界最速に惚れ込んでカワサキを買う奴に
自制心なんかありゃしねぇ
死ぬか飽きるかだ
万が一、乗りこなせたとしても
そんときゃお前はプロのレーサーだ
俺もZZRで懲りて
今じゃZRXでサンデーライダーだ

のようなことを喫煙所で長々と語りだした
俺は静かに怒っていた
「過去形でニンジャを語ってんじゃねぇよ…」と

死ぬのが怖くて自分で運転できるか
怖かったら電車とバスしかのらねぇよ

世界最速に股がる以上
ダッセェのとトロイのとツマンネェのに
ナメられるワケにゃいかねーんだよ

親子三代に渡って愛したカワサキが
世界で一番速くないと気がすまんのは
作る方も乗る方もよく知っている

CB750のときも
KATANAのときも
ブラックバードのときも
ハヤブサのときも
世界最速を奪われたなら
奪い返す
カワサキってのは
ニンジャってのは
そういう乗り物なんだ

もう決めているんだ
もう誰にも止められないんだ
外野は黙ってろ
根性無しは黙ってろ

2001年、21世紀が始まり
叔父さんが新車で買ってきた
「ZXー12R」
小学校に入りたての俺が
あのタンデムシートで見た
世界最速の流れるような景色のパノラマ
次は俺が運転席で見る番だ


自由詩 Ninja Copyright 一 二 2014-04-20 21:02:33
notebook Home 戻る  過去 未来