新聞配達 (夢喰植物)
乾 加津也

あかつきに浮かび上がる
公務員宿舎と電電公舎
ひとり走って戸に挟む朝刊
サン、サン、イチ、ヨン、ニ、イチ、ニ
口をつく勢い
少年だけの暗号


 また足音のように、それはやって来た
 すべての配達先が思い出せない
 どこにもない、手元のリスト
 吐いた唾(たいえき)からも、きみは逃れられない
 人なし人の、入り口がめくられ
 カラーボックスに漫画
 犯されたリカちゃん人形
 ベビーカー、赤ちゃんが寝ています、宗教お断り
 焦る肩、立ちすくみ、考え続けるひたすら
 ニ、イチ、ヨン、イチ、
 いまにも広がる暗号のつづき
 灼熱の底から、きみの首裏を舐めて
 過ぎた舌先に
 πの乱立

 、
 気がついたかい
 空は紺青のフエキ糊
 顔なし人はあちらこちらで
 とりかえしのつかないきみと交差する




きみが出会いたい個人
(その名残りがギムとセキニン)
あの場所は
とわのπではなかった

老いらくよ、最期まで
(ひらくままに熱もこぼして)
もう、赦してあげて


自由詩 新聞配達 (夢喰植物) Copyright 乾 加津也 2014-04-19 20:08:09
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