当惑する桜色
るるりら



(今のは、
)

うつむいたまま 石畳の下り坂に さしかかったところで
わたしの背中を押した 今のは?
眼下の階段には
無数の花びらの影が蠢いて なにやら
むぅら むら 
無数の点のような 気配が それぞれ かってに動きながら 階段を逆上してくる
私の背中を押している なにかがある

ふりむくと そこには無数の桜の花びら
あたり一面で乱舞しながら 
あたり一面に 桜が舞い
それぞれの花びらの落しているた影も 乱舞していて
階段に映し出されている影は いまも浮上してみえる

ふと この空間にある出来事は
桜の散っている今だけではない気がする
空間には いつも こんなふうに いろんなものが 蠢いているのが 本当の姿で
むしろ いつもの景色が遠くまで見渡せる景色が、嘘なのかもしれない

いつもは見えないだけど、いつも桜が空中を埋め尽くすように
いのちに満たされて それらは いつしか沈殿したり 浮上したり
こうやって わたしを包んでいてくれていて

私を白くする
私を 淡くする
私を 広げる
私を とりかこむ あわいあわい さくらいろ
ふだんはみえないけれど いまの わたしは さくらの まっただなかにあって
当惑するし たたずむ さくらの中の ただの人

つつまれたかったんだ
包まれたいという単純な願望を
わすれていた

わたしは いつもこんなふうに つつまれていたんだ
わすれていた 


自由詩 当惑する桜色 Copyright るるりら 2014-04-19 16:36:15
notebook Home 戻る