亡父
山部 佳

一度だけ
父と取っ組み合いになった
後にも先にも
希薄な親子にとっての真剣な対峙は
それっきりだった

生意気盛りの高校生
飛行機が好きだった私は
トリポリでB747が爆破されるのを見て
声を上げて彼らを詰ったのだ
どういう経緯だか
そこから大東亜戦争の話に発展し
父と言い争いになった

「あんたらがちゃんとせんかったから
あんな戦争になったんや」
「おまえなんぞに何が
わかるっちゅうんや」
気丈だった母も
この時ばかりは青ざめた

大学を出て就職したとき
父はまぶしそうに私を見た
何も言わなかった
寡黙な禿頭がそこにあった

何も言わぬまま
父がいなくなった後
私はやっと分かった
私なんぞは何も分かっていなかったのだ
時代の流れにただ流されることの
恐ろしさとその無力感
父が口に出したくなかったこと

ちょうど私が
年金の支払いを先延ばしにされても
消費税が上がり自衛隊が戦闘可能になっても
仕方ないな…と思うのと
同じように


自由詩 亡父 Copyright 山部 佳 2014-04-19 00:51:35
notebook Home 戻る