湧出鬼没 (三篇のオムニバス)
るるりら


【まじか】

気が付くと
赤を塗りたくっていた
白い画用紙に クレオンの油の瘤が
浮き出てくるほどに
太陽よりも大きな赤が
あることを まじかに

もっとまじかに赤を ひきよせているのか
それとも あたりに放出したいのか
無軌道な線を無数に
放埓に

けれど それらの線は
しだいに重なり
円の形に収まって行く
わたしの中にある太陽は
円なんぞでなく、 巨大な球で
太陽より暴力的に 魂がぬけた赤だ


頭蓋骨を血が叩く音がする



【まじで】

トランステクノな薔薇として育てられマスカラ
愛されるがために美として生まれてマスカラ
羨ましい生き方だと言われてマスカラ ええ計算しつくしてマスカラ

覚悟して地平線に近づこうと むこう側をつぎつぎと開示しマスカラ
それでも地平線には辿りつけない美の線路 
1000年後の世界へと帰るために開示しつづけマスカラ
「千年前は、まだスマートフォンですから」世界の重さも数gですから
ここでは今日も 誰も見ていない夕日が薔薇色に落ちてゆきますから
わたしは もう 未来に還ります。

白線の内側は、線路を中心におくと、 そちらではないですから  
右の耳から 左の耳穴に音が飛びぬけてゆく モーメントにありますから
寂しがり屋のマネキンのつけまつげは速乾性 泪でヌレテも平気ですから



【ましに】

ついに言霊が反旗を翻したのも無理はない。
なぜなら もはや人々は言葉について
恥じらいというものを失ってしまった。
言霊のことなんて まるで気にもしないで
御覧よ。 もはや 世界は 空虚なメリーゴーラウンド
回転木馬が 世界を回している。

木馬に乗っている連中ときたら 喉のない聖歌隊
おまけに天井の絵は まやかしに満ちた 抽象的な迷路
世の中は高速で動いていると、だれもが口にするが
回転木馬の壁に描かれた絵のように 軸にある壁を じっくりながめると
同じ場所を回っているだけだと だれでも きづいてしまうから
だれひとりとして 中心にある事柄を見ようとはしない。

言霊たちは ついに反旗を翻した。
もうまっぴらなのだ。人間の管理下を脱走して、
言葉たちは 先祖がえりをしはじめた。
人々は、すこしもそのことに気が付かないようだが、
言霊だちは コンピューターの中には もうすっかり居やしない。
人気のなくなった古本屋からも 言霊は 脱走した。


シツケの悪い掃除ロボットが、床に糞を撒き散らして彷徨っているなどと
人々は噂しているが、それは ちがうぞ。あれは 亀だよ。
それも、甲骨文字を背中の内側に持つ 亀なのだ。
亀の甲羅の内側には無数の言霊が生きている。
甲骨文字は すべて占いに直結しているものだ。未来のことに真剣なのだ。
おまけに亀ときたら 後ろに進むことが苦手なので、
亀は未来にむかって着実に足を進める

言霊は 
甲骨文字を内側に秘めた亀たちの背中の中だ。
亀たちは 街を部屋という部屋を歩き回り 言霊の卵を産卵しはじめている。
人間たちは 今は すこしも気が付かない。
言霊を背中にしょった亀たちを 知らない。

言霊の卵を生む亀は、泣いている。
すこしは ましに なってくれよ。泣きながら願う祈りとともに
卵が、産まれつづけている。




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追記
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メビウスリンクというサイトで連詩として投稿させていただいたものと
詩の勉強会の課題として提出させていただいたものを 合わせて オムニバスとさせていただきました。
http://mb2.jp/_gsk/241.html
http://mb2.jp/_aria/844.html-71#RES


自由詩 湧出鬼没 (三篇のオムニバス) Copyright るるりら 2014-04-14 09:10:07
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