ten times or more
凛々椿

昨晩のメキシコ映画を熱く反芻して屋台の列に並んだものの
ずいぶんと待たされた でも手作りだから仕方ない
5月は近い
風は雲を掃いて頂には太陽
匂いに高揚


じり り




そう 花だって!
さつきの中には紅をふちに差すものさえいたんだ 驚いたよ
僕はさつきどころかさくらの華やぎにすら……
気づけば名残のはなびらがくるぶしにまとわりついて
もはや鮮やかなるは笑む新緑
ああ春は終わってしまったのだ、と
気づいて悔いて
わびしいのに
手にはメキシカンタコスとコロナエキストラ


僕が人をもてなす間に木の芽は力を携えた
僕はもてなすので春の日の長く伸びるさまに気づかなかった
僕はもてなし働くので土日祝のさまを知らなかった
  そうだ、休日とは元来こうなのだ!
  休日を大勢と共有する、楽しむ、はしゃぐ、そして……
世の中をずっと遠くに感じている
人と交わり難い現実に悲しく感動もしている まるで自慰のよう
でも さ
"For she's lived it ten times or more"
目を真っ青に塗ってしまったDavid Bowieですら
退屈をそう優しく歌ったのだから
隔たりを憂いながらかぶりついたタコスの具を膝頭にこぼすぐらい
なんてことないんだ 
いいんだ
なんてことを思いながら でも、口の中はチレの辛みでみたされていて 
なんだか……
なんだか全然 "David"って感じじゃないや、って 
跳ね笑う
そう 僕はいま 土曜日に存在している!
たまには許されていい、と 
ふつうを内に孕ませながら 浮き足立つ僕をも包括してくれる
すこし不器用な
あいかなわぬ秘色の空のもと で
存在に、恋をしている




自由詩 ten times or more Copyright 凛々椿 2014-04-12 21:23:07
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