白い花の抜け落ちる憂鬱
橘あまね
遠くの街の錆びた街路樹に
薄紅色の吐息が咲く
秘密めいた儀式は終わりがない悪夢によく似て
通りすがりの足音を数える孤独な作業みたい
蛇口からほそく水を落とす
鉄くさい地下室からは解体される機械じかけの悲鳴が
ちいさく響き
ぼくは歯の抜ける夢をみながら
ドアを蹴破ることもしない
できないことができないのが許せなくて
枯葉色のポケットから錠剤を飲み下し
空を無くした連中を憐れみそして見下し
悪い憶測は階乗で増えていく
止めることができないから錠剤を追加する
ああ!
ぼくはちっぽけだあまりにちっぽけだ
遠い街の儚い白い花に繋がれた鎖を噛みちぎる
毛むくじゃらの生き物
噛みちぎるために生まれてきた奴等に
噛みちぎられないにはどうしたらいい?
日暮れを恐れて靴底がひどく重いから
もう歩きたくないのに
遠くの街で孵る薄紅色の吐息を
ぼくはいつまでも求めてやまない