G線上のアリア
ユッカ

春の海の
波の色は真珠のようだね
水平線が桜色に燃えて
誰かが捨てた氷結の缶すら
宝石みたいに光るんだから

花見に行きたいと言ったら
危ないからと止められた
不審者が出るのは
経験から言って
春より冬だよ
特に11月がひどいんだ
クリスマスに向かって
変態がウォーミングアップ
始めるからね

だからわたしは
こんなのどかな風景にも
安心して埋もれていられる
オレンジに染まった住宅街の
西洋かぶれした家から聞こえる
たどたどしい音のつらなりが
G戦上のアリアだということにも
とっくの昔に気づいている

きみはいつも不幸に忙しくて
花なんか見ていないだろう
音楽なんか聞こえないだろう

それもしょうがない
恋だの金だの
そんなことに血眼になるには
人生っていうのは長すぎるんだ

わたしも今日はくたびれた
風がつよい日には夕陽を見ようか
この星は広いから
一日に夕陽を何度も見ることはできないけど
砂にまみれて
目を閉じてしまっても
てのひらがもうひとつあれば
浜辺に光る
白い貝殻のような
真実を拾うことだってできる


自由詩 G線上のアリア Copyright ユッカ 2014-04-10 23:26:34
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