五行歌連詩/コブシの花
岸かの子
真夜中のファミレス
遠慮がちに
丸まって寝る老人
テーブルには
ドリンクバーのカップ
人もまばらな
真夜中のファミレス
ひとり・ひとりが
さみしく何かを
抱えて飲むコーヒー
真夜中のファミレスは
人生の縮図
思わず声を
かけたくなる
とても若い子達
眠れない私は
ファミレスの住人になる
誰も干渉しない
隅っこのテーブルで
話声も届かぬ所へ
涙は
落ちる、より
零れる、が良い
シン、とした午前四時
私の宝石が散らばる
東へと向かった
彼の人は
同じ月を
眺めてくれているだろうか
ファミレスの窓からは見えないけど
手を引いてくれるなら
直ぐにでも行くわ
忙し過ぎる貴方へと
ふわりと咲いた
コブシの花をたずさえて
コブシの花は
始まりの季節に似合うの
ファミレスの老人にも
子供達にも
きっと勇気をくれるわ