姉ちゃんの本棚のホットロード、
末下りょう


4つうえの姉ちゃんの本棚には、(ホットロード)と(瞬きもせず)しかなかった
たまに学年成績トップとかの姉ちゃんは、本棚に紡木たくしか置かなかった
こんなの読んだらオカマになると思って僕は読まなかった


小5の春休み
姉ちゃんが塾に行ってる夕暮れ
なにも読みたい漫画がなくって 、
なんとなくホットロードの1巻を姉ちゃんの本棚から抜くと
表紙の絵がきれいで、そのまま僕はページをめくった
それらは僕に吹きつけるある瞬間をなお支配する気分の、感傷の、産みの親になった

タクティスに憧れ、
しゃがむ夜のアスファルトはこんなにも冷たく、400Fの青い風が
測ることのできない火花を散らしてそんなにも
胸を熱くするのかと 、
指が震えた

改造車のヘッドライトが夜のガードレールにさらす青ざめた炎を抱きしめ
寒空に鳴り響く傷を分かちあい
赤いテールランプを見据え 、
オキシドールで脱色した季節を捧げあう者たち

あらゆるハルヤマの横顔に憧れ、セリフを暗記した
和希みたいな彼女が欲しかった
見たこともない明日の軽さと重さは同じ重さだとしった
はみ出さなきゃ見えない夜をしった

爆音とクラクション、ライトのなかで揺れながら星になる者たち
信号はただの信号で
走りたければ走ればよかった

澄み切った夜明け、彼女たちの涙、純白の特攻服
海岸沿いの分岐点に消える
金髪の後ろ姿



それらは僕に吹きつけるある瞬間をなお支配する気分の、感傷の、産みの親になった
久しぶりに漫喫でホットロードを読んだ
使い果たしたはずの明日が
埋められていくようで
泣きそうになる

冷めたアスファルトがタイヤの熱に溶けても
風は青いまま、マフラーを鳴らして
煌めく波打ち際 、
おさない影を伸ばして歩く、2人の距離は
そのままに




自由詩 姉ちゃんの本棚のホットロード、 Copyright 末下りょう 2014-04-09 16:33:31
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