夜の蜘蛛
イナエ

 1
指先の吐き出す音は
宇宙で絡み合う
としても 
糸の無い繋がり
華やかな彩りも 
時の経過に
消える夜の虹
孤高の富士は
大地に根を張り
世界の山々と融合するけれど

彼方から降りしきる情報は
脳内に吸い寄せられ 
パチパチ爆ぜて
未熟な願望に呼応し 共鳴して
出現するとしても
幻想の風景

音の先に見詰めあう眼は
手を延ばせば遠ざかり
あるいは
指がぶつかり合って
ノイズに揺れ 風に揺れて
淡く宙の淵に沈み

崩壊した幻想の 
亡骸は大地に渦巻く風に吹かれ
宙の渚を彷徨い 
銀河の醸し出す波へ消えていく


 2
国道を走る車の音は途絶え
人の生命が休息する静寂に
尖ったかぎ爪に吊された昨日の夢が
今日にしたたり 
沸き上がる霧が
不確かな明日を幻想する

鉢底からはみ出した根は宙を這い
広がった枝が隣の鉢を押し倒 
枝先の子房から拡散するアレルゲン

むせ返りせき込む蜘蛛の
シャベルのような顎に
砕かれた夢のさざ波は
干渉と増幅を繰り返して
鼻腔を通過する

蜘蛛の臀部から
吐き出された糸に
絡み着かれた皮膚は
神経を弾かれ痙攣する
不規則に収縮する心臓が
送り出す液体に血管は硬化し
水流は肺に滞る

窮乏する酸素に大脳が震え
幻想が沸騰して 
明日の夜空へ
声帯を震わせ
ベッドを呼び寄せる



自由詩 夜の蜘蛛 Copyright イナエ 2014-04-08 09:29:36
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