脱出
大覚アキラ

明日が今日になってしまった真っ暗な道で、アルコールの心地よい浮遊感に酔いながら、ふと目をやったドブに捨てられていた昆虫の図鑑からは、蝶のページだけが、まるでヒステリックな女が引き裂いた昔の男の写真のように、激しく破り去られていた。そこに「ない」ということが「ある」ということもあるものなんだな、などと酔っている割にはっきりとした感覚でそう考えたおれは、それもよかろう、そうつぶやいて図鑑から索引を破り取った。これで、この昆虫たちは索引という鎖に自分たちの名を縛られることなく、飛び立てるだろう。

展翅板の唸りが、おれには聞こえた。


自由詩 脱出 Copyright 大覚アキラ 2005-01-19 23:09:55
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