25歳の夏〜39歳の春
オダ カズヒコ



地平の果てに辿りついたぼくは
打ちのめされていた

25歳の夏に
時間の終わりがやってきた
空間もそこではぴったりと
閉ざされていたのだ
東京の新宿
早稲田通りを路地へ入った住宅街

誰もがその場所では
自らの魂(タマシイ)を進んで差し出した
ゆっくりと
水面にでも浮かべるように

たくさんの人が
そこには居たような気がする

アパートの大家さんや同級生やバイト仲間
新宿駅へ向かう
洪水のような人々の群れ

樹海と死海が交じり合うような
その都会の場所で
肉体は暖かく
骨は不気味にそそり立つ

時間が終わると
見ていた夢も
同時に果てるのだと
隣にいる誰かが言った

ぼくはもう一度
この世の果てた場所に立ってみた

不気味な雲海が
あまねく足元を覆い尽くす
言葉が出なかった

黒々としたものに飲み込まれ
その先には
野を這うような無しかないのだ

人間という人間が
とてもいじけた存在で
可哀想に見えてきた
為すべきことも理解できずに
欲望と怠惰の間を
ただ振り子のように行ったり来たりするだけ
まるでヤジロベーのように
虚しい

だれも感じるように
ここに世界はなく
もう一掴み先の向こう側にそれはあるものだ

お前はここへ何をしに来たのだと
隣にいる誰かが肩を掴んできた
まるで石灰に触るような男の手を振りほどき
血のように温かく流れ出す言葉を探した

昨日までとは違う
新しい世界を歩き出すために
ぼくはまた
地平の果てを見に行くのだ





自由詩 25歳の夏〜39歳の春 Copyright オダ カズヒコ 2014-04-06 14:47:13
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