ランドスケープ
由木名緒美

左耳が嗤ってる そんな時は
真鍮の針を心臓に突き刺して
鼓動の波で全身を海にする
皮膚という皮膚に群がる蟻が
感情の熱で蒸し焼きになるまで
ただ立ち尽くして真理の老木を凝視みつめていた

本心の知れぬ知己達と
一杯の聖水を回し飲みする
誰がその結晶を吐き出すかは
彼自身の哲学が決めること
嘘は暴かれて始めて独り立ちするものだから
きっと誰もがその役を演じたがってる

壊れやすい角砂糖が必要な時
苦味は偶発ばかりを期待して
ついには溶け合えない理性と渇望
マーブル模様だけが一心に
融合の核心を描いて見せた



夕闇の街灯の下 時を止めてあの人が佇んでいる
我を忘れて声を上げれば
傍観に目を光らせる鴉共を追い払うことが出来たけど
背筋に響く無数の気配は
一人取り残された私の肩に 漆黒のやさしい羽根を降り立たせた

予知夢が花咲く午前0時
街はなおも母体とはぐれて
当てずっぽうな標識を乱立する
今日産み落とした卵を
明日あす羽ばたかせるには
もう少しばかりの躊躇が必要
踏み留まるこの脚を折れば
ほら、ひざまずけるよ
鉄筋製の十字架をかすめて
満潮の月がさざめいている


自由詩 ランドスケープ Copyright 由木名緒美 2014-04-03 03:58:45
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