ランドスケープ
由木名緒美
左耳が嗤ってる そんな時は
真鍮の針を心臓に突き刺して
鼓動の波で全身を海にする
皮膚という皮膚に群がる蟻が
感情の熱で蒸し焼きになるまで
ただ立ち尽くして真理の老木を凝視ていた
本心の知れぬ知己達と
一杯の聖水を回し飲みする
誰がその結晶を吐き出すかは
彼自身の哲学が決めること
嘘は暴かれて始めて独り立ちするものだから
きっと誰もがその役を演じたがってる
壊れやすい角砂糖が必要な時
苦味は偶発ばかりを期待して
ついには溶け合えない理性と渇望
マーブル模様だけが一心に
融合の核心を描いて見せた
*
夕闇の街灯の下 時を止めてあの人が佇んでいる
我を忘れて声を上げれば
傍観に目を光らせる鴉共を追い払うことが出来たけど
背筋に響く無数の気配は
一人取り残された私の肩に 漆黒のやさしい羽根を降り立たせた
予知夢が花咲く午前0時
街はなおも母体とはぐれて
当てずっぽうな標識を乱立する
今日産み落とした卵を
明日羽ばたかせるには
もう少しばかりの躊躇が必要
踏み留まるこの脚を折れば
ほら、跪けるよ
鉄筋製の十字架をかすめて
満潮の月がさざめいている