ふくろう
Lucy

三月のかた雪の上を歩いて
湖を行くと
半分水につかったまま
凍りついた樹の枝に
ふくろうがいた
ふくろうは目を閉じていたが
やがてゆっくり見開くと
私をみつめた

ひらべったい猫に似た顔
どこか威厳をたたえた丸い目で
それから少し首をかしげて
「おお・・」と言った
「真弓でないか・・」
「おとうさん」と 私は言った

父に会った以上は
一緒に帰ろうと言わなければならない気がしたが
でもいったいどこへ帰るのかと思う

笑顔の優しいヘルパーさんが迎えてくれる
介護施設のベッドへか それとも
父を憎んだ少女の私と
共に居た若い日々へか あるいは
湖の底に沈んだ
彼自身の少年時代へか・・?

父はもう
どこへも帰りたくなんかないのではないか
と思った時
ふくろうは大きな翼を広げると
素早く飛び立ち
段々に大きくなる輪を描きながら
空を旋回し続けるのだった


自由詩 ふくろう Copyright Lucy 2014-04-02 21:26:19
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