られつ
左屋百色

三角になりたい。右も左もいらない。

右手で口をおさえて咳をしたら私の右手は
遠くまで吹き飛んでなくなってしまった。
左手でドアを開けて外へ出ると庭にいた猫
がにゃあにゃあと鳴く。私の右耳は猫の言
葉がわかってしまった。(時計の針に気をつ
けなよ)と言っている。表通りへ出て街路樹
の前で何気なく立ち止まると右側のブロッ
ク塀が崩れて大きな森が生まれてしまった
。左側の商店街は小さな時計屋だけを残し
八百屋も床屋も豆腐屋もスポーツ洋品店も
文房具屋もみんな鳥になって消えてしまっ
た。駅ビルの中に入るとマネキンが近寄っ
て来て(今、何時ですか?)としつこく聞い
てくるので私は走って逃げて電車に乗りそ
のまま知らない駅で降りた。ガヤガヤとう
るさい改札を抜け空を見上げると私の左耳
はなくなってしまった。駅前へ出ると右が
地獄で左が冬景色だった。こんな町もある
んだな。しばらくまっすぐ歩いていたらざ
ぁざぁと雨が降ってきた。いや雨ではなか
った。それは時計の針だった。世界中の時
計の針が降ってきたのだ。私は慌ててコン
ビニの中へ入った。猫が言っていたのはこ
の事か。気づかないで歩いていた人たちは
みんな時計の針に突き刺され死んでしまっ
た。誰もいなくなった町は右がフィクショ
ンで左がノンフィクションだった。コンビ
二を出ると誰かの左手が落ちていた。私は
なくなっていた自分の右手にそれをくっつ
けて詩をかいた。

ごらん、
日常にある
まだまだ描かれていない
性や暴力や花や孤独や右や左

切り取ってごらん、
日常にある
まだまだ描かれていない
詩のられつ


自由詩 られつ Copyright 左屋百色 2014-04-02 15:12:48
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