春の果実
もっぷ

春の庭は公然の果実となった
うららかが市民権を得て手を振っている
春嵐の気まぐれな登場が
時々番狂わせだけれど

戸惑うことなくスプリングコートを
選んだこの日にも季節は私に謳歌を許した
飛び立っていった戸惑いの
軽いくしゃみだけが残って聞こえる

私もスプリングコート姿で手を振って
ほがらかを装ってみた
悲しみよさようなら、なのか

トランプゲームの手持ち札を隠すように
そっと胸の内を覗いてみれば
ほがらかは偽りだと知っていることが
こんなにも明らかなのに
嘘をつくことが心地良いのはなぜだろう

自分にも他人にも歓迎される嘘の
アリバイすら必要とされないこの在り方
ふと人の世を悟る瞬間が訪れた

春のせいだ
春のせいだ
春のせいだ

と嘘がついに力強い味方をみつけて
私の体にすこやかに浸透してくる
気がつくと嘘は嘘ではなくなり
本当に悲しくなんかない私が
確かに隣人であることが感じられた
少しだけ躊躇ったのちに
私は真実を捨てることを決めた
悲しさを余裕で手放してみる、すると

(春のせいだ

ほがらかはこの春に私の果実となっていた



自由詩 春の果実 Copyright もっぷ 2014-03-31 15:22:34
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