冬とまどろみ
木立 悟
蝶の影
枝のかたまり
倒れた船から
ひろがる色
午後の空
ひとつの鈴
森が鳴り
去る光
色のない径
曇と交差する
草笛 石笛
穂に似た雪
底に積もる泡
焦がす色
静かなひとつ
うたう ひとつ
野に降るものは
野に触れぬまま消えてゆく
重なる花 重なる手
咲いては咲いては消えてゆく
闇が闇を通りすぎ
刀刃のような灰を残し
知らずに巡るものたちの
左目の奥を映し出す
音も姿も色も無く
空の血はただ降りそそぎ
水に棲むものの影を増す
動かぬものの軌跡のように
失い人 失い家
一瞬のまどろみに現われて
未だ冬を負う水の
小さな行方を照らしてゆく