キスからはじまる
千波 一也
つながれた指の
無言の理由を探りあって
にじむ光の
遠くを見つめるふりをして
みずからの域を出ない
ふたつの熱帯魚
あれは雨の日だった
つたない呼吸が包み込まれて
許されて
汗は
濃密に、均一だった
地を打つしずくは
けせない鼓動と
よく混ざり
まぶたを閉じて描く、
水彩の部屋
あれは雨の日だった
容易くは崩れられない太陽の
言葉に代わるさえずりを
そっと歓んでいた
ふたつの恥じらい
はじまりの、キス
時は寡黙に
けれど、しっかり饒舌に
けなげな偽り合いを囲っていた
秒読みに
形をなしはじめる約束を
浅く、満たして
やさしい砦のように
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【きみによむ物語】