影の春
nonya


ショーウィンドウの前から
ふわりと剥がれた影は
軽やかにステップを踏んで
もうひとつの影にくっついた

大きな紙袋をぶら下げて
せかせかと動き回る影は
スマホを耳に押し当てたまま
量販店の影に取り込まれた

膨らむ好奇心を抑え切れずに
ぽんぽんとよく弾む影は
繋いだ手をいきなり離して
毛むくじゃらの影に吸いついた

約束を持たない影は
街の迷路から抜け出せずに
それでも口元を緩めながら
ふらりふらりと舗道を漂う

行先を持たない影は
十字路に吸い寄せられてくる
賑やかな影と影の波間で
こっそりと息継ぎをしている

スクランブルの水門が開いて
忙しなく交わった影と影が
それぞれの春に向かって
あっという間に解けてしまえば

私の形をした影はまた
途方に暮れるに決まっている




自由詩 影の春 Copyright nonya 2014-03-27 20:59:49
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