十字架の空
千波 一也





貫いて、
まっすぐ空を貫いて
僕は僕の
生きてきた道を
証そうとしていた

この手を握りしめると
隠しようのない非力さが伝わって
けれどわずかに
意外な力も伝わって
僕は
僕以外のものになどなれないのだ、と
ただまっすぐに
苛立っていた

そこへ
急な角度で現れたのは
君だったね
あり得ないほど自分勝手な生き方で
笑わせたのは君だったね

真一文字に
雲が流れていった
はじまりの、
あの夏

僕に守れる
ものがあるとしたら
きれいに
理由を飾りつけて
守りの一切を放棄しようとする僕を
見逃さないことだ

守ろうとする弱々しさと
格好悪いほど必死な姿は
無かったことになど
ならない

すべて、
すべてを認めることが
僕に守れる僕、だ

たやすくはない
ただひとりの
僕、だ

貫いて、
まっすぐ空を貫いて
僕は
君の気まぐれに
つまずいてばかり
だけど

相変わらず、
だけど

僕は
僕以外のものに
僕の知らない、あかるい夢のような僕に
なれそうな気がしている

知らないことが
やさしく思えるような
みえない僕に
なれそうな気がしている

互い違いの一直線は
実は
互い違いではないのだろう
きっと
懸命ならば、
同じことなのだろう

幾重にも
幾重にも
それぞれの信じる、一直線が
結ばれた空には
分かれ目などない

きわめて繊細に編まれた絹のように
穏やかな空だ、
今日も

頑なな
僕たちのうえに、
唯一無二の約束ごとのように









自由詩 十字架の空 Copyright 千波 一也 2014-03-26 23:03:40
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【きみによむ物語】