バイオリンを弾く猫の絵のついたマグカップ
Lucy

よく晴れた朝
新しい職場へ向かう
昨日の特訓で疲れているけど
今日も頑張れる
覚えなくてはならないことがありすぎて
頭がぱんぱんになる
あまり眠れなかったけど
ちょうどいい緊張感だ

こんなにもいいお天気だ
春も今日中に来る
朝はマイナス二度でも、
昼にはプラス十度にまで気温が上がると
天気予報
雪道ももう解けかけている

マグカップを
手提げ袋に入れた
思えば前の職場でも
その前の職場でも
いつも使った
友人からの
たしか誕生日プレゼントだった
今までよく割れなかったなあ
感慨深くピカピカに磨いて
もういちど
私と一緒に働いてもらうよと、
しみじみ
語りかけたりした

ふと目の前に凍りついた路面
日陰だった
重心を預けた靴底が前へ滑って
上半身がついていかない

このままいくと頭を打つと
なぜかスローモーションで思って
右手をついた
アーこれやると腕折れるんだよと
やはりスローモーションで思って
 
肘に激痛
やっちまった
手首は・・?おそるおそる動かすと
手は動く
痛みはすぐに薄れていく
どうやら骨折は免れた

前から来たおじさんと
後ろから来たおばさんが
心配して声をかけてくれる
「大丈夫かい?」
「大丈夫でした。なんとか・・。」
腕をさすりながら立ち上がる

おじさんは笑って立ち去ったけど
おばさんはこの冬転んで手首を折った先輩だった
今もリハビリに通うと言う
少し一緒に歩きながら
おばさんのたいへんだったお話を聞く
「どうぞお大事に。ご心配いただいて
ありがとうございました。」

職場に着くと
思い出いっぱいのマグカップは
手提げの中で粉々に割れていた



自由詩 バイオリンを弾く猫の絵のついたマグカップ Copyright Lucy 2014-03-25 09:47:31
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