循環
藤原絵理子


赤血球のヘモグロビンが
その炭素原子を吐き出す
特別な意味を持った炭素原子

見知らぬ酸素原子にまとわりつかれて
二酸化炭素になって出て行ってしまった
あたしの炭素原子

どうして吐き出してしまったのか
父の精子が一生懸命泳いで
たどりついた母の卵子
その時からずっと
あたしの中にいたのに

ちょっとくらい体に悪くても
sp2混成軌道を作って
留まっていて欲しかったのに

あたしの炭素原子は
庭の桜の葉が吸い込んで
蕾の中のセルロースに組み込まれた

寒の戻りの冷たい風に
ぷるぷる震える枝の声が
懐かしい歌をうたうから分かる

花が咲いたら
桜茶にして飲むつもり
鳥に盗られないか気にかかる
今年の冬の終わり


自由詩 循環 Copyright 藤原絵理子 2014-03-23 22:43:35
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