小詩集【あおい瞳】
千波 一也







一 あの丘で


 あの丘で
 春風をむかえよう

 あの丘で
 花のかざりに
 微笑んでいよう

 あの丘で
 小鳥の歌に
 つらなっていよう

 あの丘で
 涙のわけを
 待つことにしよう





二 子犬のように


 愛してほしい一心で
 じぶんでもどうしようもなく
 柔らかいのです
 柔らかいのに
 直線なんです

 無邪気に
 傷をこさえては
 言葉のあやも知らず
 抱かれていたいのです
 例えるならば
 子犬のように





三 飴玉


 いつでも
 つやつやとしている
 ひとの目は
 飴玉なのかも
 知れません

 子どもがじっと見つめてきますもの
 猫が見つめてきますもの
 犬も見つめてきますもの

 とはいえ
 味見のしようもありませんから
 そろそろ夢でも
 見にいきます
 ね





四 願いの数


 願いの数は
 ひとつになさい

 次々うまれる
 願いであるなら尚のこと

 たったひとつの命なら
 きゅっ、と結んで
 むやみにならず

 願いの数は
 ひとつになさい





五 陸つづき


 わたしたち
 こころを生きている
 だから、
 そういう意味で
 世界は同じ
 陸つづき

 けれど
 こころは
 こころの意味は
 生き方次第で変わってしまう
 それがおそらく海で
 決して背けはしない海で
 わたしたちの前に
 ひろく在る

 わたしたち、
 つよがりを生きて
 ほほえみを生きている
 わたしたち、
 つぐないを生きて
 いたわりを生きている

 わたしたち、
 こころを生きて
 海を知ってゆく

 陸として
 海を一から知ってゆく

 わたしたち、
 今日もどこかで生きているなら
 ただそれだけで
 世界はおなじ
 陸つづき

 誰もがおなじ
 陸つづき





六 合い鍵


 合い鍵があれば
 もう片方をなくしても
 大丈夫だから

 とびらを開けるための
 はたらきは
 失われない
 から

 合い鍵をつくって
 たくさん
 たくさん
 つくって

 失うことに
 構えることは
 おわりにしましょ

 大丈夫だから
 なんにも失わない
 から





七 プレゼント


 届くといいね
 そのプレゼント

 包み方はわるくても
 リボンの結びがずれてても
 きみにしか贈れない
 そのこころが
 届くといいね

 高価じゃなくても
 ぎこちなくても
 苦笑いでも
 無愛想でも

 届くといいね
 そのプレゼント

 きみだけの
 あの人に

 あの人だけの
 きみ宛てに





八 空はうたう


 空はうたう
 いのりの総てを受けとめて
 あおい大きな
 鏡となって

 空はうたう
 かなしみの始まりを
 さまよって
 海に
 なりきれはしない
 海として

 空はうたう
 よろこびの終わりに
 触れたりせずに
 すむように
 片意地張って
 ついに
 雨を
 ふらせて

 空はうたう
 いのちの総てのひび割れを
 透けた両手で
 覆い隠して
 けれど
 やっぱり
 鏡のままで





九 永遠


 永遠に
 ここで待っているから

 永遠に
 ここを離れはしないから

 永遠に
 ここがぼくの居場所だから

 永遠に
 ここはさよならの源だね

 永遠に
 ここから思い出し合おう





十 背中


 憶えています
 その背中

 ほかのいろには
 染まりそうもない
 けなげすぎる
 その、青

 汚れようとする不慣れさを
 かばう言葉に
 めぐまれて
 まだ
 途中でしたか
 その旅の

 憶えておきます
 その背中

 名前の代わりに
 顔立ちの代わりに
 この瞳が
 捨て置けない
 複雑な
 一色を
 憶えておきます

 よい青に
 寄り添われますよう

 こころ静かに
 慕っています
 その背中

















自由詩 小詩集【あおい瞳】 Copyright 千波 一也 2014-03-23 00:40:57
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