春を装う死の詩
ただのみきや

呆けたまだらの歌声に
後ろから捕えられ
目隠し外せば 春は
    娘姿の老婆
千代紙から蝶
切り抜いては 
    ふうっと 吹いて

この肥大した冬には 
心の資産全てを失った
氷柱つららが刺さった影が日時計の失踪者
頭の中で薄紅色のベルが鳴り響く頃
透明な幾つもの死に方を紐で結わえたまま
あなたのような朝が滅茶苦茶に照らすのを
ただただ忘却したかったのです
ぬるい吐血のような秘密に溺れながら
苦悩だけが上塗りされる記憶のキャンバス
仄暗さから縋りつく父母のような手は
のっぺらぼうのまま切断されて沈黙を引っ掻く
ああ膿んだ月の膨らみ
誰かの破裂しそうな欲と絶を抱き寄せて
共に果てたかったのです

名を欲しながらことわりのない絵図に跳ね遊ぶ
鳥獣たちの鉤爪にこびり付いた叫びの子孫は
窮屈な上着を拒み続ける裸体の花嵐
犠牲は織り込み済みだと笑う〇gの熊蜂です
まるで決して欲してはいないかのよう
誰もが逆風に明るい色の襟を立てるのに

この解れて往く像は何者でしょう
狂気は陽炎ゆらり手招きし
無言で剪定する春の猟奇と創作レシピ
貞操なきヒューマニズムの汚染水に
目から耳から溺れて明日は湾になる
飲み干せなければにしん 満面の綻びで
呼ぶ魚が呼ばれる老婆のまな板の上
わたを抜かれて「っ」と開いた口形から
ふるえる言葉がそっと世界を覗き
生まれまいと踵を返す
残り滓は土地の肥やしに
散骨的散文か
散文的散骨か
   それが問題だ



          《春を装う死の詩:2014年3月5日》






自由詩 春を装う死の詩 Copyright ただのみきや 2014-03-21 14:00:16
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