きつねのよめいり
そらの珊瑚

川伝いに伸びる
でこぼこ道の向こうから
菜の花がきれいね、と
懐かしい人が
光をまとってやってくる
どこかで硝子製の呼び鈴に似た
澄んだ鳥の声が響く

あなた、
ずいぶんともう
大人になったのね、と
ほほえんでいる
夢に出てくる人は
雛人形のように
永遠に年をとらない
涼しい目元の少女のまま

二国峠に
さしかかる頃
ふいの天気雨
小さな社の軒先を借りる
昨年、故郷の大銀杏に雷が落ちた話をすると
覚えてるわ!
学校帰りによく遊んだわね
じゃあ、あの樹のうろに
一緒に隠した宝物も
燃えてしまったのかしらと
小首をかしげて少し残念そう
運が悪いということはそういうことなのよ
狙い定めて天から落ちてくるの
実は神様なんか大嫌いだったの、と言う
のぞきこんだ
彼女の瞳の奥は今にも決壊しそうだった

雨が小降りになると
それではお先に、
また会いましょうと言って
彼女は出ていく

どこへゆくの? と問いかければ
ぼんぼり町まで。
そこできつねと祝言をあげるのと
明るい調子で手をふったあと
彼女は消えた
あとに残されたのは白い煙
そうね、命はあとかたもなく
燃えてしまうものだったわね

さて、わたしはどこへゆけばいいのだろう
宝物の中身は何だったのだろう
尋ねる人はもはや旅立ってしまったし
胸に手を当ててみても思い出せない
そんなもやが晴れるまで
わたしはましろな足袋をはいたまま
旧暦の春のすきまで
――ああ、答えのない問いが育っていく
のびた自分の影をみつめ
小さな迷子にでもなった気分でいた


自由詩 きつねのよめいり Copyright そらの珊瑚 2014-03-21 12:05:30
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